いつもなら本屋さんは三日と空けず行くのだが、このところ忙しく二週間ぶりぐらいにいつも行く本屋さんに顔を出したら本作が平積みになって、北上次郎の推薦文の掲載された大きなPOPがディスプレイされている。
どうしたんだ、この推しようは…。
講談社や文芸春秋、新潮社とかならわからなくもないが、ハヤカワ文庫である。
はっきりいって、このプッシュの仕方と北上次郎の熱い推薦文で買ってしまった。
おそらく、これがなかったなら一生、手に取ることもなっただろう。
さっそく、読んでみると、これが、面白い。
600ページを越えるボリュームだったが、久しぶりに一気読みしてしまった。
主人公の中井優一は大手印刷会社系の子会社で決済用ICカードの開発を行うIT会社の営業マン。
彼は同じ部署の部下であり、高校の同窓生でもある伴浩輔とマカオのカジノで儲けた金で、東アジアの某国の首長の息子を思わせるVIPから香港にあるペーパーカンパニーの株を購入することになる。
そのペーパーカンパニーは自分の会社と深く関連するアンタッチャブルな存在だった。
さらに、そこで決済用ICカードの暗号を開発していたのは、高校生だった頃の中井が恋心を抱いていた鍋島冬香だった…。
物語の舞台となる香港やマカオの描写は魅力的だ。
思えば、この空気感が好きなのかもしれない。
東南アジアが舞台の小説は、ホテル一つとっても魅力的な小道具が充実している。
例えば高級ホテルのペニンシュラ香港。
そこのオーセンティックなバーでキューバ・リブレといった安っぽいカクテルを頼む主人公ってどうなのか? と思ったが、すでにここに彼の独特な人生観のようなものが現れていることを読み進むにつれ知ることになる。
「未必の故意」という法律用語は、例えば、何もしなければ誰かが亡くなったり事故に遭ったり事件に巻き込まれること知っているのに、意図して忠告や注意をしないようなことをいうが、読み進みにつれてタイトルの『未必のマクベス』というのも、なるほどと。
そうした意味において全体に主人公をはじめとした登場人物たちの無常観が横溢している。
「まさか、そんなことはないだろう」と思わせるような事件がいろいろ起こるが、巧みな文章のせいか澱みなくすらすらと読ませる。
主人公の親会社のモデルは大日本印刷や凸版印刷(現在のTOPPAN)あたりかと脳裏に浮かぶ。
思えば日本の大企業ってこんなにおっかないところだったかな?
読み終えて橘玲の『永遠の旅行者』や『マネーロンダリング』といった小説とテイストが似ているなと感じた。
ミステリーとも経済小説とも、あるいは恋愛小説いうこともできたり、舞台が東南アジアだったりするところのせいだろうか?
蛇足ながら、本作が好きなら沢木耕太郎の『波の音が消えるまで』(少々、まどろっこしいかもしれないが)も、空気感が似ていておススメです。
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