『女のいない男たち』村上春樹
村上春樹『女のいない男たち』
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久しぶりに読む村上春樹の短編集である。
タイトルは『女のいない男たち』。

初期の短編のような余白をイメージさせるスカスカな感じがなく(昔の作品はこのあたりが、心地よかった)、密度が濃い文章はポップさが影を潜めた。
純水のような癖のない文章は、以前にもまして最近の海外の純文学系作家の作品を読んでいるような気分にさせられた。
それでも、文章のあちらこちらに村上春樹らしさが見え隠れする。
そんな訳で、当初はちょっと変わったかなと思ったが読む進めていくにつれ、ああ、やっぱり村上春樹だなというおもいにさせられた。

最初は『ドライブ・マイ・カー』というビートルズのヒット曲のようなタイトルの物語。
この短編には文芸春秋に掲載されたときに、舞台となった北海道の中頓別町の町会議員からクレームが入ったというエピソードがある。
それは、登場人物の女性が車の窓から煙草の吸殻を投げ捨てたシーンで、それを見た主人公の中年男性が彼女の田舎の「(北海道の)中頓別町ではみんなが普通にやっていることなのだろう。」という個所である。
この問題はネットでもいろいろと取り上げられたが、中頓別町の住人ならともかく、ほかの土地に住む他人がどうこう言うような問題じゃないと思うし作者本人が違う町名に変更したならそれで、めでたしめでたしでよいのでないだろうか。
よって、この短編集では中頓別町から十二滝町という架空の町名に変更された。

自分などは、もし自分の住む町が村上春樹に作品の中で多少ネガティブな扱いをされたとしても、作品で取り上げてくれただけでありがたいと思うが、そう思わない人がいることも事実だろう。
そうしたことは理解できるのだが、本作の舞台として、後世まで書き残されたであろう中頓別町はもったいないことをしたのでないだろうか?
もっとも、このエピソード自体で中頓別町が歴史に名を残したともいえるのだが…。

この本には6編の短編が掲載されているが、どの作品も長編になりうる可能性を感じる。
この先、楽しみだ。
それにしてもと言うか、やっぱり村上春樹の小説はエロい!


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